「枯れ葉踏み」

姉がマンションから落ちた。それから寝たきりになった。私は面倒になって、近所のひとと友達に、姉はもう死んだと言ってしまった。お葬式もやってないのに。それでもみんなわかってくれて、姉のことについては触れないようにしてくれている。表面上は。それでも、枯れ葉を踏んでいると遠くから、行きたい高校にも受かってたのに、おかしいわねえと言葉だけが聞こえてくる。おかしいわねえ。おかしいわねえ。

なんで姉がマンションから落ちたのか。眠っている姉の顔をじっとみる。お姉ちゃん。受験がストレスだったの? だれか好きなひとでもいたの? いじめられてたの?私には訊けない。訊くことはできない。私に優しかったお姉ちゃん。でも私は今、マンションの下の階のおばさんたちと同じくらい、お姉ちゃんについて知らない。私はあのおばさんたちと同じくらい、お姉ちゃんに許されていない。それがものすごく悲しい。何回泣いても泣き足りないほど悲しい。お姉ちゃんは死んだ訳じゃない。死んでなんかない。まだ生きている。だけど私は、どうしてってお姉ちゃんに訊くことができない。

お母さんは、これが一番だとか言って、働くことで思考を停止させている。毎日、ちゃんとしたおいしいごはんを作ってくれる。私はそれを残さず食べる。すこしでも残したらもう、取り返しのつかないほど泣いてしまいそうなのだ。

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